北村建築設計事務所

縁あって、事務所兼自宅として、古い民家(築150年程度)を借りることになりました。松本の町中に残るこの民家は10年近く空家で、物置きとして使われていました。予算も限られていましたので、取り合えず最低限の修理と片付けをして、住みな がら考えようということになりました。
仕事柄、古い民家には数多く接していましたので、不自由ながらもその豊かな空間を良く分かっていましたが、いざ生活を始めると大変なこともあり、古い民家 に住む方の苦労が身にしみて分かります。しかし、その苦労を忘れてしまうほどの生活の喜び、自然の息遣い、物を慈しむ気持ちなど多くの出会いを経験してい ます。我々のように、後から民家に接した者には片寄った先入観もなく、長い時間をかけて造られ続けて来た日本の住まいの持つ良さを、純粋な視点で見ること ができるのかも知れません。現在の生活に合わせ、大々的に民家を再生する方法もありますが、建物の痛みや改造、溢れる物によって隠れてしまった民家本来の 住まいとしての良さは、まずもとの姿に戻すことによってでしか気付かないことがあります。変わることのない住まいとしての良さをまず知った上で、将来に向 けて再生する方法を検討することも必要なのかも知れません。

竣工 : 2003年 施工 : 有限会社 江川建設